医療用RI製造 - 京都大学複合原子力科学研究所 アクチノイド物性化学研究分野

medical RI

放射線:物質との相互作用

放射線の物質との相互作用 拡大

日本人は一年に3.75 mSvの放射線を受けているとされていますが、天然環境から1.48 mSv、医療から2.25 Svとされています。(「生活環境放射線」原安協-231、1992)
物質の相互作用の強さは放射線の種類で決まります。α線(ヘリウム原子核)は紙で止められ、、β線(電子)は薄い金属板で遮蔽され、γ線(電磁波)はこれらを透過し鉛板で遮蔽されます。

放射線:医学利用

放射線の医学利用(in vivo放射性医薬品) 拡大

医学利用では、体を透過するγ線が主に診断に、がん細胞を破壊する能力のあるα線とβ線は治療に利用されます。

放射線は細胞内で何をするか?(α粒子を例に)

α粒子は物質内で、運動エネルギーを電離によるイオン化で物質にエネルギーを与え、最後は原子核と衝突して停止します。停止するまでに長さあたりに物質に与える直線エネルギー付与(LET)はおよそ200 keV/μmで、停止までの長さは30-100 μmで、細胞内では数個以内です。狭い領域に重点的に電離が行われるため、細胞の遺伝子(DNA)の二本鎖切断が起こりやすく、もはや修復できず細胞が死ぬ。
β粒子(電子線)はイオン化と制動放射線の発生により物質にエネルギーを与えて停止します。LETは0.3 keV/μmと小さいため、最大1.6 mm、すなわち数千個の細胞に影響を与えます。電離の密度が薄いため、DNAの損傷は一本鎖切断であり、修復される場合もある。

放射性同位元素(RI)を
ラベリングで核医薬にする

放射性同位元素(RI)をがんの腫瘍組織に届ける方法も進化を続けています。
最もシンプルな方法は、放射性同位元素の金属塩を体内に入れる方法です。ラジウムイオンが同族元素のカルシウムを主要な構成元素としている骨に集積する性質(親骨元素)を利用します。
最近は特定のがん細胞の表面に現れる抗原に対して、特異的に結合する抗体を利用します。RIの金属と錯形成(ラベリング)し抗体を接続する配位子を設計することで可能になります。

医療用RIの比較

項目 Lu-177 Ra-223 Ac-225
1.放出放射線 β-粒子
(208 keV)
α粒子
(5.0-7.5 MeV)
α粒子
(5-9 MeV)
2.半減期 6.65日 11.43日 10.0日
3.ラベリングの容易さ 容易 不可 容易
4.費用 1~2千万円 数百万円 数千万円以上
5.製造方法 濃縮同位体Yb-176の原子炉照射と分離精製 U-235
(国内にないリソース)
のミルキング
欧米ではTh-229
(国内にないリソース)
のミルキング
6.国内製造の可否 可能 不可 高速炉常陽での試作計画あるが、その後は不透明

日本でも承認され販売されているRa-223と、2016年の論文で前立腺癌が全身転移した状態から完治し衝撃を与えたAc-225は、α放出体です。これらは日本では製造しにくいこと、ラジウムはラベリングしにくい問題があります。
Lu-177はβ放出体で、現在は全量輸入ですが、国内の研究炉で製造できるようになれば費用は安くなります。

私たちは、国内での安定したLu-177の供給を目指した研究を東北大、京大、金沢大、福島県立医科大の研究者と共同で進めています。

医療用RIの製造

Ac-225の場合には、ミルキング(乳搾り)という方法で製造されます。
東北大学金属材料研究所には、少量ですがAc-225を生み出すTh-229があります。1-2週間ごとに生成したRa-225とAc-225を分離し、最後にAc-225のみを取り出すことができます。このような製造法は乳牛( Th-229 )からの乳搾り(ミルキング)に例えられます。

私たちは、Ac-225の製造とともに安全管理上のデータを研究し公表しています[1]。これはレギュラトリーサイエンスといって、科学的知見と規制等の行政との間の橋渡しとなる科学で最近注目されています。
[1] T. Yamamura, et al., Radiation Safety Management, 35-48(2020) 19

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