アクチノイドの物性化学 - 京都大学複合原子力科学研究所 アクチノイド物性化学研究分野

actinide

複合研 アクチノイド物性化学分野

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アクチノイド物性化学分野

アクチノイドの核的性質と電子的性質を両極として、私たちは「つくる」、「調べる」、「利用する」研究により、アクチノイド基礎・応用研究を進めていきます。

アクチノイドの物性化学とは

原子炉発電所の燃料として用いられるウランは、それが燃焼して生じる燃料のプルトニウムや、放射性廃棄物と考えられるネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどとともに、周期表では「アクチノイド」という系列にあります。皆様は、周期表の下に離れて、希土類とアクチノイドの系列が表示されていることで思い出される方もいるかもしれません。プルトニウムから後の元素は、人類が発見して80年に満たないため、様々な興味深い性質が眠っていて、今もその研究がされています。

アクチノイドの系列元素は15個ありますが、全てが放射性です。他方、磁石やレーザーに大活躍の希土類と負けず劣らず、変わった電子的性質があります。私たちは、このようなアクチノイドの興味深い物質を作ったり、調べたりすることで、利用していきたいと考えています。

アクチノイド系列元素は
どこにあるか?

アクチノイド元素とは、周期表においてアクチニウム(Ac)からローレンシウム(Lr)までの15の元素を含む重元素群です。希土類と同様にf軌道に電子が充填されることから、長周期表では希土類と同じグループになります。
しかし、アクチノイドでは重元素のため相対論的効果が強くなり、また電子数が多いため電子相関が強く、希土類と異なる性質が多く出現します。

七色の変化は、電子の働きが
活発な証拠

周期表の上で似た系列の希土類元素とは電子の働き方が大きく違います。
アクチノイドイオンは相対論効果によって複数の酸化数をとり、ダイナミックな色の変化を起こします。希土類の4f軌道は外の軌道に遮蔽されて局在化によってイオン結合性を示しますが、アクチノイドの5f軌道は広がり遷移金属と同様に共有結合性を持つ可能性があります。

アクチノイドのフタロシアニン・サンドイッチ錯体の研究

大環状の共鳴構造を持つフタロシアニンは多くの金属と錯体を構成します。イオン半径が大きいアクチノイドはフタロシアニンとサンドイッチ型の錯体を作ります。放射性の強いアクチノイド錯体を合成する上ではコンパクトに汚染を生じない方法が必要です。このような方法として固相合成法を構築しました。また、電解酸化による結晶も作成し、結晶系の変化が見事に示されました[1]。
[1] C. Tabata, et al., J. Molecular Structure, 1277 (2023) 134870.

放射線場に発見された
興味深い物質群

現在の東京電力(株)福島第一原子力発電所のデブリは高い放射線環境にありますが、第二次世界大戦で稼働したハンフォードのプルトニウム製造工場の深刻な環境汚染も有名です。このような事故や環境汚染はしてはならないものです。
他方、この環境で新たな発見もありました。水の放射線分解物とウランの反応で過酸化物が生じますが、これが組み上がりU60と呼ばれるサッカーボール状の分子が存在することが明らかになりました。
このように負の遺産からも、サイエンスに大きなインパクトのある発見も生まれることがあります。