放射性廃棄物への取り組み - 京都大学複合原子力科学研究所 アクチノイド物性化学研究分野

Radioactive waste

使用済燃料に含まれる
元素の内訳は?

加圧水型原子炉(PWR)で、3.9%の濃縮度のウラン燃料を45 GWd/tの燃焼度で燃焼し、5年間冷却した時に、使用済み燃料に含まれる元素を、元素の原子番号(Z)に対する存在量(Abundance)の対数で示しました。計算にはORIGEN 2コードが使用されました。

問題はマイナーアクチノイド?

原子炉発電所でウラン燃料を燃焼後の燃料の元素組成を見ると、大別して2つのグループがあることがわかります。一つは70未満の原子番号の元素群で、核分裂生成物(Fission Product、FP)と呼ばれます。ストロンチウムやセシウムなどの発熱性物質、ヨウ素、クリプトン、白金族元素、希土類元素などがあります。もう一つはウラン(原子番号92)より重い93番以降の原子番号の元素群です。超ウラン元素と呼ばれるこれらの元素には、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムなどがあります。これら3つの元素群は「マイナーアクチノイド」(MA)と呼ばれます。
これらMAは従来は放射性廃棄物として地層処分される計画でしたが、最近では放射性毒性の低減のため、放射性廃棄物として含めないことができるか研究が行われています。

マイナーアクチノイド(MA)と呼ばれる元素群は、ネプツニウム、アメリシウム、キュリウムです。ウランやプルトニウムは「燃料」という「メジャー」な存在と大きな物質量ですので、MAに含まれません。

MA三兄弟は問題児?

元素記号
左下は原子番号
左上は質量数

23793Np

241/24395Am

24496Cm

元素名 ネプツニウム アメリシウム キュリウム
代表的な核種の半減期[y](それぞれ) 214万年 432年、7370年 18年
酸化状態(安定なものを朱色太字 3,4,5,6 3,4,5,6 3,4,5,6
何が難しい? 酸化状態が変わりやすく分離しにくい化学的性質 長期にわたる放射能 発熱、激しいa放射能

放射性同位元素は固有の半減期を持ち、半減期ごとに放射能は半減します。MAの3元素はいずれもかなり長い寿命を持ち、また酸化状態の点で、分離プロセスが非常に困難な問題がありました。精密な化学分離を行うことも可能ですが、それに伴う廃棄物がかえって増えてしまうバーターになってしまいます。

放射性毒性はいつまで続くのでしょうか?研究の現場では元の放射能の1/1000になると放射能が弱くなったと言いますが、これには半減期の10倍の時間を要します((1/2)^10=1/1024)。

MAが放射性廃棄物として地層処分されれば、長い時間管理が必要です。ネプツニウムの半減期が214万年ですから、2000万年もの間管理できるかが問われます。

放射性毒性はいつまで続く?

放射性毒性を示す単位にはシーベルト(Sv)が使われ、放射能の強さ、放射線の種類に関係します。
図は原子力発電でウランを使用しなかった場合の放射性毒性と同じ放射性毒性まで低減される時間を比較しています。ウランとプルトニウムを燃料として再利用するため、「MAを除去すれば」、300年程度の管理で済みます。

現在、MAを短い半減期の核種に変換する方法が提案されていますが、技術的課題の解決には時間を要しそうです。私たちは、アクチノイドの物性化学の手法を応用し、「暫定保管体」として保管する燃料サイクルを提案しています。

新たな抽出プロセスの研究開発

一般には精密分離では二次廃棄物が増える傾向にあります。再処理工場では、抽出プロセスでは逆抽出、溶媒洗浄といった排水が多量に排出され、配管や蒸発缶の腐食が深刻な問題です。
私たちは、これを解決する新たな抽出分離法を提案しています[1]。CHON抽出剤(注)と比較的低い沸点を持つ希釈剤を用い、抽出後に有機相を蒸留することで抽出物質をそのまま酸化物に「直接転換」します。

(注)CHONとは、焙焼により完全にガス化して回収可能な炭素、水素、酸素、窒素により構成されること。
[1] T. Yamamura, et al., J. Nucl. Sci. Technol., 515-520(2010) 47

新たな酸化物の製造
プロセスの研究

水相から固体酸化物を製造する方法について、従来より精力的に研究を進めてきました。
現在では、150ºC程度の温度でUO2マトリックスを生成できます[2]。MA等を含む場合には、このような反応の後に雰囲気制御して焙焼することで、安定な(U,M)O2固溶体を生成することも可能です。
[2] C. Tabata, et al., CrystEngComm, 3637-3648(2022) 24